2025年10月3日、一般社団法人 日本歯科理工学会から「コンポジットレジンを用いた3ユニットCAD/CAMブリッジの具備すべき機械的性質要件に関する基本的な考え方」という資料が公開されました。
今回は、この資料を見ながら、どんな材料がCAD/CAMブリッジとして採用されるか考察していきたいと思います。
学会から公開された資料について
一般社団法人 日本歯科理工学会から、2025年10月に以下のような発表がありました。
「コンポジットレジンを用いた3ユニットCAD/CAMブリッジの具備すべき機械的性質要件に関する基本的な考え方」について
令和7(2025)年10月3日
一般社団法人 日本歯科理工学会 理事長 二瓶智太郎歯科用金属材料によるアレルギーの発症、また価格の高騰から、金属材料に依存しない歯冠修復治療を保険診療で普及させるために、CAD/CAM装置とコンポジットレジンブロックを用いたCAD/CAM冠が平成26(2014)年度の診療報酬改定において保険導入されました。その後、欠損補綴治療への対応としてグラスファイバーで補強された高強度コンポジット(硬質)レジンブリッジも平成30(2018)年度の診療報酬改定で保険導入されました。現在では、CAD/CAM装置から製作された3ユニットコンポジットレジンブリッジの開発も行われており、既に薬事承認を取得したブリッジ用コンポジットレジンブロックも存在します。本件に関連して、一般社団法人日本歯科理工学会および公益社団法人日本補綴歯科学会では、この新たな技術を安全に活用するためにCAD/CAM装置により製作された3ユニットコンポジットレジンブリッジが具備すべき機械的性質要件に関する基本的な考え方を作成しました。
両学会では、この要件に基づいた新規歯科医療技術の導入と医療安全への活用を頂ければと考えております。ご高配いただきますよう宜しくお願いいたします。
(資料)
引用元:https://www.jsdmd.jp/news/news_251009.html
この資料から、どんな材料が保険収載に向けて議論されているのか、考察していきたいと思います。
CAD/CAM ブリッジに使用される材料
CAD/CAM ブリッジに使用される材料については、以下のように4つに分類されていました。
3.CAD/CAM ブリッジに使用される材料
引用元:https://www.jsdmd.jp/file/news/news_20251009.pdf
CAD/CAM ブリッジは,コンポジットレジンが主材料となる。しかしながら,コンポジットレジン単体としての強度には限界があり,また脆性材料であるため,セラミックスと同様に粉々に粉砕される破壊形態を示す。現在,保険適用されている高強度硬質レジンブリッジでは,グラスファイバーで補強することでその機械的性質を補うことで,臨床応用可能な補綴装置となっている。
これらの事実を踏まえ,CAD/CAM ブリッジとして使用される材料は以下の 4 つとなる。
1)歯冠用硬質レジン
二層構造による築盛型ブリッジを製作する場合,フレームへの前装材料として用いる。
2)コンポジットレジンブロック
二層構造によるキャドオン型ブリッジを製作する場合の前装材料として用いる。また,一体型ブリッジの製作に用いることもできる。
3)ファイバー補強コンポジットレジンブロック
グラスファイバーにて補強されたコンポジットレジンブロック。一体型ブリッジの製作に用いる。
4)ファイバーフレーム用ブロック
グラスファイバーによって製作されたブロック。二層構造による CAD/CAMブリッジのフレームに用いる。
要約すると、以下の3種類のCAD/CAMブリッジ製作方法が有り得るとしています。
- 二層構造のCAD/CAMブリッジ(ファイバーフレーム+フレームへの前装)
- 一体型CAD/CAMブリッジ(ファイバー補強有り)
- 一体型CAD/CAMブリッジ(ファイバー補強無し)
このため、1種類の材料ではなく、ファイバー補強された材料とファイバー補強していない材料等、複数の材料について議論をしているのだと推察されます。
CAD/CAM ブリッジが具備すべき機械的性質要件
公表された資料では、CAD/CAMブリッジが具備すべき要件として、以下が挙げられています。
CAD/CAM ブリッジが具備すべき機械的性質要件
引用元:https://www.jsdmd.jp/file/news/news_20251009.pdf
【現時点における3ユニット CAD/CAM ブリッジの具備すべき要件】
(1)ファイバー補強されている3ユニット CAD/CAM ブリッジでは,7日間水中浸漬後の規格ブリッジ形状における破壊荷重がすべての試料にて 2,200 N 以上であること。
(2)ファイバー補強されていない3ユニット CAD/CAM ブリッジでは,7日間水中浸漬後の規格ブリッジ形状における破壊荷重がすべての試料にて 3,600 N 以上であること。
ブロックの曲げ弾性率は平均 11 GPa 以上であること(7日間水中浸漬後)。
ただし,ファイバー補強されていない3ユニット CAD/CAM ブリッジでは,支台装置の脱離やブリッジの完全な破壊が生じやすいため,適応症の厳守が必要である。
こちらでも、ファイバー補強された場合、されていない場合で分けて記載されています。このため、ファイバー補強のないコンポジットレジンについてもCAD/CAMブリッジの材料として議論をしているのだと推察されます。
二層構造のCAD/CAMブリッジ(ファイバーフレーム+フレームへの前装)について
二層構造のCAD/CAMブリッジは、以下のような材料が既に薬機法の認可を受けて販売されています。


どちらも、ファイバーフレーム用ブロックで、二層構造による CAD/CAMブリッジのフレームに用いる材料です。
一体型CAD/CAMブリッジ(ファイバー補強有り)について
一体型CAD/CAMブリッジ(ファイバー補強有り)に関しては、現在販売はされていません。
ただし、Twitterでデンタルショーで展示されているのを見たと投稿している人がいたので、近々販売されそうです。

一体型CAD/CAMブリッジ(ファイバー補強無し)について
一体型CAD/CAMブリッジ(ファイバー補強無し)については、資料を見る限りは既存のCAD/CAM冠用材料の強化版のような印象を受けました。
一体型の CAD/CAM ブリッジに用いられる材料の三点曲げ試験(ISO 10477:2020)から算出された曲げ弾性率(水中浸漬7日後)はコンポジットレジンブロックの CAD/CAM 冠用材料(Ⅱ)準拠ブロック(9 GPa),コンポジットレジンブロックの CAD/CAM 冠用材料(Ⅲ)準拠ブロック(10GPa),ブリッジ用のコンポジットレジンブロック(11 GPa),ファイバー補強の高強度硬質レジン(15 GPa)の順に高くなり,最も高い曲げ弾性率を有するファイバー補強コンポジットレジンブロック(19 GPa)とキャドオン型および築盛型のファイバーフレーム用ブロック(19 GPa)では同等となる。
引用元:https://www.jsdmd.jp/file/news/news_20251009.pdf

CAD/CAM 冠用材料(Ⅲ)準拠ブロックの曲げ弾性率が10GPaなのに対して、「ブリッジ用のコンポジットレジンブロック」の曲げ弾性率は11 GPaとなっていました。結構近い値なので、PEEK冠のような全然違う材料ではなく、既存のCAD/CAM冠用材料の強化版のような印象を受けました。
また、物性に関して
ブリッジ破壊試験から算出された破壊荷重では,ブリッジ用のコンポジットレジンブロックで約 4,100 N と高い値を示し,ファイバー補強されている CAD/CAM ブリッジも含めて,すでに保険導入されている高強度硬質レジンブリッジの破壊荷重(約 2,200 N)を超えているため,臨床応用が可能と考えられる。
引用元:https://www.jsdmd.jp/file/news/news_20251009.pdf
との記載があり、この「ブリッジ用のコンポジットレジンブロック」はすでに保険収載されている高強度硬質レジンブリッジよりも優れた物性を持っているようです。
CAD/CAMブリッジの適応部位に関して
CAD/CAMブリッジの適応部位に関しては、第一大臼歯欠損に対して使用出来る可能性があります。
根拠としては、今回の資料が、第一大臼歯欠損の試験条件で破壊試験を行っているからです。

現在保険収載されている高強度硬質レジンブリッジは、原則第二小臼歯欠損に対してのみ使用可能です。第二小臼歯欠損で3ユニットブリッジを製作する症例はあまりないので、正直ほとんど使うことはありませんでした。
CAD/CAMブリッジが第一大臼歯欠損にも使用可能であれば、適応できる症例は多そうです。
考察
資料をまとめると
・曲げ弾性率に関しては、明らかにファイバー補強型の方が補強していないものよりも優れている。
・ファイバー補強していないものも、すでに保険導入されている高強度硬質レジンブリッジの破壊荷重(約 2,200 N)を超えているため,(適応症を厳守すれば)臨床応用が可能
となっていました。
ファイバー補強のレジン系のブリッジは、CAD/CAMでないものはすでに保険収載されています。
- 2012/12/01~2018/03/31 先進医療として「金属代替材料としてグラスファイバーで補強された高強度のコンポジットレジンを用いた三ユニットブリッジ治療」導入
- 2018/4/1~ 保険治療に「高強度硬質レジンブリッジ」導入
と10年以上前から段階を踏んで、保険治療に導入されてきています。
CAD/CAMで無いものは既に保険収載されていますから、CAD/CAMでの製作も認めますとすればよいだけなので、ファイバー補強型のCAD/CAMブリッジの保険収載のハードルはそんなに高くなように思われます。
ただし、現在販売されている二層構造によるファイバー補強型のCAD/CAMブリッジには以下のような問題点もあります。
- フレームと外冠を別々に制作し、接着させなければならない
- フレーム部を露出させてはいけないという制限がある。

特に、ポンティックの基底面と連結部下部もフレーム部を露出させないようにしないといけないのが曲者です。この部位は模型上で手作業でしないと難しいので、意外に製作に手間が掛かりそうです。
その点、「一体型CAD/CAMブリッジ(ファイバー補強有り)」や「一体型CAD/CAMブリッジ(ファイバー補強無し)」の場合は、CAD/CAMでブロックから削り出し後、研磨すれば完成です。製作の簡便さではこれらの材料方がシンプルで優れています。
資料を見た感想としては、ファイバー補強されて一体型のブリッジが製作可能な「一体型CAD/CAMブリッジ(ファイバー補強有り)」が有力なのかなと感じました。


