PEEK冠とは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)という高強度プラスチックで作られたCAD/CAM冠(被せ物)のことです。2023年12月から保険適用となり、大臼歯に対して保険治療で使用できるようになりました。
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)とは
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)とは、スーパーエンジニアリングプラスチックの一種です。
スーパーエンジニアリング プラスチックとは、エンジニアリング プラスチック (エンプラ) の中でも特に高機能なプラスチックのことで、高温でも使用できる耐熱性や、高い強度、耐薬品性、耐摩耗性などを持ち、金属の代替材料としても使用されます。


PEEK冠の特徴
PEEK冠の特徴としては以下のようなものが挙げられます。
長所・メリット
高靱性で、強い力が加わっても破折しにくい
PEEK材は他のレジン材料と比べ、高い靭性を有し破折しにくい材料です。株式会社松風が公開している圧縮試験では、平均咬合圧の10倍の10kNの荷重をかけても破折しませんでした。

対合歯を摩耗させにくい
PEEKは物性値としてのビッカース硬度はハイブリッドレジンより小さく,対合歯に対して咬耗を生じさせにくいです。(学会のガイドラインから抜粋)
金属アレルギーの心配がない
非金属材料なので、金属アレルギーの心配がありません。また、金属アレルギーの方にも使用できます。
緩衝作用が期待できる
過度の咬合力に対して緩衝作用も期待できるという特徴も有し、歯根への負担が生理的範囲で歯の寿命に有利に働くことが期待できます。(学会のガイドラインから抜粋)
吸水性が低く、物性が安定している
吸水性が低く,物性が安定しています。このため、材料の劣化が小さく、変色のリスクも少ないです。(学会のガイドラインから抜粋)
生体適合性が高い
化学的に不活性であり、生体適合性が高いです。医療用インプラントとして既に頭蓋骨や頚椎等に使用されている実績もあります。

密度が低く、重量が軽い
密度が低く、金属材料やジルコニアに比べて重量が軽いです。具体的には、12%金銀パラジウム合金の約1/8、ジルコニアの約1/4程度です。(データ引用元:ヤマキン商品説明ページ)

短所・デメリット
審美性に劣る
透明感がなく,歯冠色の再現が困難です。(現行のレジン系材料に相当するような審美性は有していません。)

PEEK専用のプライマーが必要
接着しづらい材料で既存のレジン系材料と接着メカニズムも異なる為、接着処理時にPEEK専用プライマーが必要です。

ガムがくっつきやすい
メーカーの公式Q&Aにて、「チューインガムの種類によっては付着します。歯ブラシで除去が困難な場合は、ペーパータオルや布などで拭うと除去できます。それでも除去が困難な場合は、研磨にて除去してください。」とアナウンスされています。
サンドブラストの種類によっては内面が黒変することがある
メーカーの公式Q&Aにて、「アルミナの種類によってはPEEK内面が黒変する場合があります。黒変の原因はサンドブラスト処理による面性状の変化やアルミナの残留物が影響していると考えられます」とアナウンスされています。
対策として、変色を抑えるために白色のアルミナ粉の使用が推奨されています。松風からPEEK冠用に「松風ホワイトアルミナ」という専用の商品が出ているので、心配であればそれを使用すると良いです。
臨床実績が少ない
臨床応用されてから日が浅い為、症例数が少ないです。また長期経過後の予後が不明瞭です。
PEEK冠の適応部位
PEEK冠の適応部位は、大臼歯の単冠であれば保険適用となります。(親知らずも可)
ハイブリッドレジンのCAD/CAM冠には適応に制限がありますが、PEEK冠は大臼歯の単冠であれば制限はありません。(単冠のみでインレーやブリッジは不可。)
PEEK冠の色調
PEEK冠の色調は、現在IvoryとWhiteの2種類があります。よく使われるVITAシェードではないので、色調が分かりにくいです。そこで、各社のVITAシェードのシェードガイドと比較をしてみました。(判別しやすいように、グラデーションの無いモノカラーのシェードガイドを使用しています。)
イボクラ社のシェードガイドとの比較

イボクラ社のシェードガイドと比べた感じとしては
- Ivoryは、A2~A3くらいの色調
- Whiteは、A1~A2くらいの色調
でした。(写真のシェードガイドは、イボクラ社のempress用のシェードガイドを使用しています)
デンツプライシロナ社のシェードガイドとの比較

デンツプライシロナのシェードガイドと比較した感じでは
- Ivoryは、A3Cくらいの色調
- Whiteは、A1C~A2Cくらいの色調
でした。(写真のシェードガイドは、デンツプライシロナ社のCEREC Block用のシェードガイドを使用しています。)
色調による販売元の違い

購入したPEEKブロックを比較したところ、Ivoryは松風が販売元ですが、Whiteの販売元はなぜかデンツプライシロナになっていました。
保険適用のPEEK材料について
2025年6月時点で、保険適用として販売されているのは、松風PEEKブロックのみです。
ただし、販売はされていませんが、保医発0430第2号(令和7年4月30日)にて以下の材料が保険適用材料として厚生労働省に認可されています。
- CORE PEEK マテリアル(コアフロント株式会社)
- KZR-CAD ピークブロック(YAMAKIN株式会社)
- *追記:2025年8月からCORE PEEK マテリアルはCiメディカル等で販売が開始されました。これにより、PEEKブロックは松風の独占販売では無くなりました。
- *追記:2025年9月22日から、ブリージョ CAD PEEK(デンケンハイデンタル)の販売が開始されました。
また、松風PEEKブロックもセレック用のものが後発で出てきました。

既存のPEEKブロックとの違いは、台座部分です。既存のもの(写真の上の方)はブロック部分と一体成型されているため台座もPEEK材ですが、セレック用のもの(写真の下の方)は金属製の台座をブロックに接着させる形態を取っています。
実際にPEEK冠を製作した所感
セレック用のPEEKブロックが販売されたので、せっかくなので実験的にPEEK冠を製作してみました。

Twitterで技工士さんが「PEEK冠は削りカスが出るから掃除が大変だよ」といっているのを見たのですが、実際削ってみると削りカスがいっぱい出ました。ハイブリッドレジン製のCAD/CAM冠の加工時はほぼ削りカスは残らないのでこまめに掃除しなくてもよいのですが、PEEK冠の加工後は掃除が必須となります。(不織布ガーゼ を事前に敷いておけば掃除が楽になると聞いていたので、写真ではCiの不織布ガーゼ 20×20cmを広げて敷いています。)



PEEK冠を製作してみた所感として、スプルー部分の切削部等に所々毛羽立っている部分が見られました。既存の材料では見られない特徴です。マージン部は意外と滑らかに仕上っていました。咬合面の裂溝はあまりシャープではありませんが、後からカーバイトバー等で形態修正できる部分なので問題無さそうです。株式会社スワデンタルさんも加工直後のPEEK冠の写真をアップされていましたが、同様に咬合面の裂溝はあまりシャープではなかったので、材料特性的にこうなるのかもしれません。
カーバイトバーによる形態修正について
PEEK冠の形態修正については、松風の商品説明では[アジャストカーバPB」が推奨、日本歯科技工士会の解説動画では「アクリル・PEEK切削仕上げ用 FSQカッター」が推奨されていました。

両方購入して使ってみましたが、個人的にはFSQカッターの方がPEEK冠の加工時にバリが出にくく使い心地が良かったです。
PEEK冠の形態修正・研磨時の注意点は、メーカー解説動画にも記載されていますが回転数を10,000min-1以下にすることです。高速回転だと変な毛羽立ちが生じることがあります。
海外における歯科分野でのPEEK材料
海外においては、既にブリッジに使用できるPEEK材料が販売されているようです。



日本でも、PEEKによるブリッジは製作されている
保険適用外ですが、日本でもPEEKによるブリッジを製作している技工所(Kdentalさん等)がありました。

こちらの技工所さんでは、PEEKにレジン前装を施して、審美性の改善を行っているようです。
保険適用外なだけで、材料メーカー公認でPEEKでブリッジ製作は可能

ヤマキンのKZR-CAD PEEKの商品説明にブリッジ製作手順の解説が載っているので、保険適用外なだけで材料メーカー公認でPEEKでブリッジ製作は可能なようです。そのため、上記のKdentalさんのように自費診療であれば日本でも現時点でPEEKブリッジは製作できそうです。(自費ならジルコニアブリッジがあるので使う機会は殆ど無さそうですが。)審美性の問題を改善するために、こちらでもレジン前装を施すことが推奨されていました。
将来的にメタルレスのブリッジ材料として保険適用の候補となりそうなのは、現時点ではトリニア(松風)、KZR-CAD ファイバーブロック フレーム (YAMAKIN)、PEEK材料なので、今後も情報収集はしていきたいと思います。


PEEK冠についてのまとめ
PEEK冠とは、スーパーエンジニアリングプラスチックの1種であるPEEKを使用した、歯の被せ物(CAD/CAM冠)である。
PEEK冠は、ハイブリッドレジンを使用した既存のCAD/CAM冠と比較して審美性に劣るものの、高靱性で破折するリスクは低い。
PEEKは既存のハイブリッドレジンとは材料特性が大きく異なるため、加工時や接着処理時はそれを念頭に取扱う必要がある。
PEEK冠は強い荷重にも耐えられる材料であり、海外等ではブリッジ治療にも使用されている。
PEEK冠は保険治療では大臼歯の単冠症例でしか現在は使用できないが、将来的にブリッジ治療で使用できるようになる可能性を秘めている。
参考資料・引用元
学会のガイドライン(PEEK 冠に関する基本的な考え方(第 1 報))|公益社団法人日本補綴歯科学会
KZR-CAD PEEK 製品パンフレット|YAMAKIN株式会社
KZR-CAD PEEK 製品レポート|YAMAKIN株式会社
「PEEK」に関する製作のポイント|公益社団法人日本歯科技工士会
《特別企画》新たに保険導入されたPEEK冠(広島大学 スペシャルプロフェッサー 安部倉 仁)
《特別企画》新たに保険導入されたPEEK製CAD/CAM冠について(株式会社松風 研究開発部 寺前 充司)
CAD/CAM冠用材料(Ⅴ)PEEK冠を作ろう。その2|株式会社スワデンタル


