歯科技工業界におけるテレワークの現状[2020年度版]

歯科技工業界におけるテレワークの現状 その他

新型コロナウイルスの影響で、様々な業種でテレワークが広がっています。

しかし、歯科業界は法律などの影響でなかなか進んでいません。

今回は歯科業界におけるテレワークの現状について解説していきます。

歯科業界で考えられるテレワークの活用方法

歯科医療でテレワークが活用できるのか?と疑問に思う方も多いと思います。

実は一部ですがテレワークを活用できる部分があります。

その1つが、CAD/CAMを利用した歯の被せ物の設計・製作です。

CAD/CAMとは

CAD(キャド)は、「Computer Aided Design」の略で、日本語では「コンピューター設計支援」と訳されます。 簡単に言うとCADとは、製品の設計図を描くための製図ツールのことを指します。

コンピューターによるデザイン

CAMとは、「Computer Aided Manufacturing」の略で、日本語では「コンピュータ支援製造」と訳されます。 簡単に言うと、工作機械を使って製品を作る際に、図面の情報を工作機械用の言語に変換して、工作機械の動き方を指令するためのツールがCAMです。

歯の被せ物の削り出し

歯科におけるCAD/CAMの利用

平成26年4月1日より、保険治療にCAD/CAM冠という治療が導入されました。

従来の金属の被せ物は手作業で作っていましたが、CAD/CAM冠はコンピューターを使って設計・製作を行います。

作られたデジタルデータはインターネットを経由し、瞬時に離れた場所に送れます。

このため、テレワークを利用した在宅勤務が理論上可能となりました。

法律による規制

歯科技工士法による規制

歯科技工士法により、歯科技工は歯科技工所で行わなければならないと規定されています。

コンピューターを利用する工程も歯科技工士法に規定する歯科技工に該当するため、歯科技工所以外での業務が現状認められていません。

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/iryou/20200127/200127iryou06.pdf

平成30年度にテレワークを活用できるよう、歯科技工所以外でもデジタル歯科技工を行えるようにしてほしいと提言がされています。

しかし、厚生労働省の回答は「対応不可」でした。

なぜ厚生労働省は認めないのか?

作られたデジタルデータはインターネットを経由し、国内は疎か国外へも瞬時に伝送することが出来ます。

このため、下手に全面解禁すると海外に外注する業者が出る可能性もあると厚生労働省は危惧しているようです。

格安で自宅を歯科技工所にするセットが登場!

上記のような状況の中、QLデンタルメーカー(川崎市)という歯科技工所が、全国に先駆けて歯科技工士の在宅ワークを始めました。

この歯科技工所は独自に考案した格安の「歯科技工士在宅ワークセット」を用いて、自宅を歯科技工所として届出する方法を編み出したそうです。

【歯科技工士在宅ワークセットの概要】※セットの詳細は別紙2に記載

歯科技工所の開設は保健所への届け出が必要で、構造設備基準(※別紙1-3)を満たす設備を揃えるには従来は数十万円から数百万円の費用が必要でした。今回、約7万5千円のセットを用意するだけで、自宅を歯科技工所として開設でき、パソコンによるデザインなどの作業が出来るようになりました。ホームセンターやネット通販などを使い、他業種向けの既製品を流用することで価格を安価に抑えました。

【考案の背景と経緯】

歯科技工業界は、若手技工士が減少し離職者の活用が課題になっております(※別紙1-1)。そこで在宅ワークが可能となる本アイデアをまとめ、川崎市の「令和元年度生産性向上・働き方改革モデル創出事業」(※別紙1-2)に応募したところ選定され、令和2年1月にセットを住宅に持ち込みモデルを開設。その後の検証の結果、川崎市経済労働局の支援の下、同業他社の働き方改革を促進し業界の離職問題を解決すべく、情報公開を決定しました。

https://www.value-press.com/pressrelease/243431

この技工所は新しい働き方を推進するため、この「歯科技工士在宅ワークセット」を公開しています。

「歯科技工士在宅ワークセット」に対する感想

率直に言って、かなり画期的な取り組みだと思います。

7万5千円程度で歯科技工所が開設出来るのであれば、従業員の自宅を歯科技工所として届出するのは有りだと思います。

また、開設は日本国内の住所でしか出来ないので、厚生労働省の危惧している海外に委託されるという心配もありません。

法律の関係で歯科分野ではテレワークは難しいと考えていましたが、まさか法律の範囲内でテレワークを可能とする現実的な方法が出てくるとは思っていませんでした。

近年歯科技工士のなり手が不足していることが問題となっていますが、このような新しい取り組みによって少しでも人手不足が解消できることを願っています。

この記事を書いた人
八島 愛富

八島歯科クリニック 院長

歯科医師
広島県歯科医師会・会員
広島市介護認定審査委員経験者(1999年~2003年在籍)
臨床研修指導歯科医
広島デンタルアカデミー専門学校 講師
ケアマネージャー資格保持者
広島県がん診療連携登録歯科医

その他