令和2年5月13日に中央社会保険医療協議会より、新規に保険適応となる治療が発表されました。(中央社会保険医療協議会 総会(第458回) 議事次第)
その中に純チタン製の歯の被せ物に関するものが有りましたので、そちらについて考察していきます。
純チタン製の歯の被せ物の概要
チタンは主な金属の中で、最も金属アレルギーを起こしにくいと言われています。
このため、純チタン製の被せ物は金属アレルギーを有する人に対して有効な治療となり得ます。
上記の資料によると、純チタン製の被せものは、従来の金属の被せ物と同じように溶かした金属を鋳型に流し込んで製作するようです。
写真を見る限り見た目に関しても、従来の金銀パラジウム合金製のものと変わらないように見えます。
適応となるのはどんな場合?
製品の特徴に
本品は、金属アレルギーを有する患者等の大臼歯におけるう蝕、歯髄疾患、破損(破折)、脱離、不適合、冠破損(破折)、冠脱離、冠不適合に対する治療に用いられる。
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000629561.pdf
との記述があります。
このため適応となるのは、
「金属アレルギーを有する人」であり、かつ「大臼歯(6番目、7番目、8番目の歯)に行う治療」の場合のみが適応になると考えられます。
<追記> 提案時点では金属アレルギーという制限がありましたが、現在では金属アレルギーでなくても適応できるようになりました。歯科 特定保険医療材料の変更点 チタンの保険適用、金パラ引き上げ - 兵庫保険医新聞 | 兵庫県保険医協会
純チタン製の被せ物のメリット
純チタンの被せ物には以下のようなメリットがあります。
金属アレルギーを起こしにくい
チタンは主な金属の中で、最も金属アレルギーを起こしにくいと言われています。
このため、他の金属を使ったものより金属アレルギーを起こすリスクが低いです。
強度が強い
金属製で強度が強いため、過剰な咬合力がかかる場所でも使用することが出来ます。
薄く出来る
ある程度薄くしても強度が保たれるため、歯を削る量が少なくても製作することが出来ます。
被せ物が外れにくいように保持孔や保持溝を付与することが出来る。
鋳造で製作するため、保持孔や保持溝を付与することが出来ます。
歯の高さが低い場合、維持が弱いために被せ物が外れるトラブルが起きやすくなります。しかし保持孔や保持溝を付与できれば維持が強くなり、その分被せ物が外れにくくなります。
純チタン製の被せ物のデメリット
加工が難しい(難削材)
チタンは強度が高く、加工が難しい材料です。高速回転で切削すると火花が散ります。
この為、再治療が必要になり除去しなければならなくなった際に大変です。
保険算定上も、チタン冠は”除去(著しく困難)”で算定することになっています。(従来の金属の場合は”除去(困難)”で算定)
(YOKO’Sキッチンさんの動画が分かりやすかったので参考に乗せておきます。)
CAD/CAM冠との使い分け
金属アレルギーのある人の場合、大臼歯部にコンポジット製のCAD/CAM冠を入れることが出来ます。
CAD/CAM冠は見た目が白く審美的なので、可能であればCAD/CAM冠を使ったほうが良いでしょう。
しかし歯の高さが低かったり、噛む力が過剰に強い人の場合には、コンポジット製のCAD/CAM冠が適応できない場合があります。
そのような人に対して、チタン製の被せ物を使うというのが基本的な考え方になると思われます。
金属アレルギーでCADCAM冠を入れる場合には医科からの診療情報提供書が必要です。(下記のリンクで詳しく解説しています。)
将来的に純チタン製の被せ物の適応範囲は増えるかも
純チタンの金属価格は、従来の金属より安価
中央社会保険医療協議会の資料によると、純チタンの価格は47円/gです。
因みに従来の金属(金銀パラジウム合金)の価格は2020年5月現在2,083円/gです。
実に44倍の価格差があります。
金銀パラジウム合金の値段は上昇を続けている
金銀パラジウム合金はここ十数年価格上昇が続いており、2010年4月1日に619円/gだったものが10年で3倍以上の値段となっています。
特に近年は価格変動が急激で、従来6ヶ月に1回であった保険治療の金属価格の改定が、2020年から価格変動が大きい場合は3ヶ月に1回行うことになりました。(中央社会保険医療協議会 総会(第456回) 議事次第)
将来的には従来の金属は純チタンに置き換えられるかも
金銀パラジウム合金の価格は上昇を続けており、医療費を圧迫する原因となっています。
このため、純チタン製の被せ物が臨床で問題ないというデータが出れば、将来的に金銀パラジウム合金が純チタンに置き換えられていく可能性があると考えます。