外科的歯内療法とは
外科的歯内療法とは、通常の根管治療では治らない場合に行う外科的な処置のことです。
歯根端切除術と意図的再植術の2種類があります。
外科的歯内療法の位置付け
根尖病変に対する歯内療法の基本は、根管を経由した通法の根管治療です。
外科的歯内療法は、あくまでも通法を試みたが治癒しなかった場合、あるいは通法を適用できない場合に限られます。

なぜ通常の根管治療では治癒しないことがあるのか?
通常の根管治療では触れない部位にまで、細菌感染が起こることがあるからです。
根尖病変の原因は細菌感染です。
多くの場合、細菌感染は根管内に限局しています。
このため根管内だけを処置すれば、原因が除去できます。
しかし、歯の状態によっては根管の外にまで細菌感染が及ぶ場合があります。
その場合は、根管内だけの処置では原因が完全に除去できません。
外科的歯内療法によって、根管以外の部位にまで及んだ感染源を取り除く必要があります。
なぜ根管の外に細菌感染が及ぶのか
根管の外に細菌感染が及ぶ原因の1つとしてバイオフィルムの関与が挙げられます。
バイオフィルムとは、微生物の集合体のことです。数種の細菌が集合して形成される膜状のもので、細菌が外的要因(薬剤、体内の免疫反応等)から身を守るために作ります。台所や風呂場の排水口や川底の石にヌルヌルとした膜ができることもありますが、あれがバイオフィルムです。
細菌の種類によってはバイオフィルムを形成することで抗生剤への耐性が100~1,000倍になるものもいます。(参考文献:https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/05902/059020151.pdf)
通常、根尖孔外には白血球などの免疫細胞が存在するため、細菌は長期間生息できません。
しかし、細菌がバイオフィルムの形成に成功した場合、バイオフィルム内に存在する細菌は、生体の免疫反応から逃れ、排除されることなく生息し続けます。
根管外の細菌感染の除去方法
通常の根管治療では触れない部位に感染が生じた場合、感染源を除去する方法として以下の2つがあります。
- 抜歯
- 外科的歯内療法
・抜歯
一番確実に感染源を除去出来る方法です。しかし、歯を失ってしまうという大きなデメリットがあります。
外科的歯内療法
感染している部分だけを外科的に切除し、歯を残す方法です。抜歯と比べると手技が複雑で、感染源を取り切れないリスクがあります。
外科的歯内療法の種類
外科的歯内療法には大きく分けて以下の2種類があります。
- 歯根端切除術
- 意図的再植術
歯根端切除術とは
歯根端切除術とは、根尖部(根の先)の悪い部分を外科的に切除し、感染源を取り除く方法です。
切除後は断面部を緊密に封鎖するため、逆根管充填を行います。
主に、前歯部等の視野が取りやすく器具の操作がしやすい部位に対して適応されます。
奥歯に関しては、以下の理由から手術適応外になることが多いです。
- 手術器具が到達不可能
- 神経が近くを走行しており、損傷リスクが高いため手術適応外
- 上顎洞が近接しており、損傷リスクが高いため手術適応外
意図的再植術
意図的再植術は、一般的に歯根端切除術が行えない場合に選択する方法となります。
- 歯を一度抜歯する
- 抜歯した歯の感染部分を除去
- 歯を元の場所に戻す(再植する)
という方法となります。
意図的再植術のメリット
- 神経や隣の歯を損傷するリスクが少ない。
- 口の外で処置を行うので、視野が明瞭・器具操作がしやすい。
- 防湿が容易。
- 逆根管窩洞の充填時に防湿が容易であり、確実に充填材による封鎖ができる。
意図的再植術のデメリット
- 歯根の湾曲や骨との癒着が生じている場合には抜歯が困難となり、処置を完結できない可能性がある。
- 抜歯操作時に歯が破折する危険性がある。(破折した場合は保存不可)
- 再植した歯が術後に骨癒着や歯根吸収を生じる可能性がある。
まとめ
通常の根管治療では治らない場合に行う外科的な処置のことを、外科的歯内療法といいます。
外科的歯内療法には、歯根端切除術と意図的再植術の2種類があります。
前歯などの器具操作がしやすい部位に関しては歯根端切除術を行うことが多いです。
奥歯等の歯根端切除術を行えない場所に関しては、意図的再植術を選択することになります。
外科的歯内療法が行えない場合や、外科的歯内療法でも治癒しなかった場合は、抜歯の適応となります。
参考文献
