2014年の健康保険改正でCAD/CAM冠という白い歯の被せ物が小臼歯(4番目と5番目の歯)限定で保険治療に新規に導入されました。
それ以前までは保険治療で製作する被せ物は金属を使ったものになっていましたので、保険治療で金属を使わない白い被せ物が出来るということで当時は歯科業界では物凄い衝撃的な出来事でした。
今年の1月頃から、業界の噂でこのCAD/CAM冠の適応範囲が広がるのではないかという噂が出てきました。
今回はその噂の信憑性についてみていきたいと思います。
保険導入するかの議論は実際に行われている
保険診療に新しい治療が導入されるには、以下のような手順を踏む必要があります。
- 関係学会等より医療技術評価提案書が中央社会保険医療協議会に提出される。
- 中央社会保険医療協議会の医療技術評価分科会にて提出された提案書を審議。
- 審議にて了承される。
2019年度は10月31日に医療技術評価分科会の審議が行われており、厚生労働省のホームページにてその資料を見ることが出来ます。(令和元年度第2回診療報酬調査専門組織・医療技術評価分科会 議事次第)
この資料にて実際に提出されて審議する医療技術評価提案書が確認できます。
提案書16(2996頁~3197頁)の資料にて、「前歯部CAD/CAM冠」「CAD/CAMインレー修復」についての提案書を確認することが出来ます。
このため、将来的に(早ければ2020年4月の健康保険改正で)保険で白い被せ物が出来る部位が広がるという噂はしっかりと根拠のある話だというのが分かります。
追記:2020年9月に前歯部のCAD/CAM冠が導入されることになりました。https://yashima-shika.com/cad-cam-crown-front-tooth/
臼歯部CAD/CAM冠についての記載は見つかりませんでしたが、現在金属アレルギーなどの特別な場合は大臼歯部のCAD/CAM冠が認められるので、その限定を解除するという形で導入される可能性はあると思います。
追記:2020年4月より上顎第1大臼歯にもCAD/CAM冠が適応拡大されました。https://yashima-shika.com/cad-cam-crown-2/
2020年4月の保険改正で導入される可能性はあるか
中央社会保険医療協議会で審議されたからと言って、すぐに承認されるとは限りません。
しかし以下のような理由から、2020年4月の保険改正で導入される可能性は十分にあり得ると考えます。
追記:令和2年度診療報酬の概要が出ました。今回上顎第一大臼歯が適応拡大はされますが、前歯部は見送られました。(2020年度診療報酬改定 保険で出来る白い被せ物の適応拡大は?)
根拠1
2020年4月より、歯科医院と歯科技工所にも働き方改革の「時間外労働の上限規制」が適応されます。
これにより、残業時間の上限が原則として月45時間・年360時間となります。(厚生労働省 時間外労働の上限規制)
もし違反した場合には、罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科されるようになります。
歯科技工士の数は年々減少しており、厚生労働省が「歯科技工士の養成・確保に関する検討会」を行うほど技工士不足が深刻化しています。
多くの歯科技工所は人手不足の為残業が常態化していますが、働き方改革で残業が出来なくなると保険での歯科医療が成り立たなくなる可能性があります。
これに対応する方法の一つとして、CAD/CAM装置で今まで人の手で行っていた工程の一部を機械に置き換えて効率化する方法が議論されています。
上記方法を採用するのであれば、時期的に2020年4月の保険改正でCAD/CAM冠の適応範囲を広げてくる可能性が高いと考えられます。
根拠2
歯科診療で使用する金属の価格が年々高くなっています。
2010年1月頃は600円/gだった12%金銀パラジウム合金が、2019年11月現在1,900円/gまで価格が上昇しています。
歯科用金属に含まれる「金」や「パラジウム」は軍事物資でもあり、世界情勢が悪くなると価格が上昇するという特徴があります。
現在米中経済戦争の影響で世界情勢が不安定になっており、歯科用金属の価格上昇は今後も続く可能性が高いです。
材料代が高くなるとその分保険点数も高くしなければなりませんが、そうなると医療費を増やさなければなりません。
医療費を抑制するためには金属材料の使用を抑える必要があり、そのためにCAD/CAM冠の適応拡大が行われる可能性は十分あると思います。
まとめ
今回は保険改正で奥歯や前歯も白い被せ物が出来るようになるという噂の信憑性について、解説させていただきました。
中央社会保険医療協議会にて実際に議論がされており、2020年4月の健康保険改正で導入される可能性は十分にあると思います。
導入されれば健康保険の範囲内でも金属アレルギーの心配のない治療が今まで以上に行いやすくなります。