口腔癌について

口腔がん

日本における口腔がんの罹患数

日本における口腔がん罹患数は6,900人程度です。

1975年には2,100人程度でしたが、高齢化社会の到来とともに罹患数が徐々に増加してきています。

口腔がんの割合は全がんの約1%、頭頚部がんの約40%を占めます。

男女比は3:2と男性に多く、年齢的には60歳代に最も多くみられます。

※数値データ引用元:口腔癌診療ガイドライン2013

口腔がんの部位別の発生頻度

口腔がんは発生しやすい部位とそうでない部位があります。

舌は口腔がんになりやすく、舌がんは口腔がん全体の60%を占めます。

口腔がんの部位別発生頻度
1位    60.0%
2位下顎歯肉11.7%
3位口底部9.7%
4位頬粘膜部9.3%
5位上顎歯肉 6.0%
6位硬口蓋3.1%

※数値データ引用元:口腔癌診療ガイドライン2013

がんの発生過程

がん細胞は、正常な細胞の遺伝子に複数の傷が蓄積することにより発生します。

遺伝子の傷は一度につくわけではなく、長い間に徐々に蓄積されてゆっくりとがん化します。

正常からがんに向かってだんだんと進むことから、「多段階発がん」といわれています。

通常、完全ながん細胞となるまでに5~10年かかるといわれています。

前癌病変/前癌状態

前癌病変

前癌病変とは、「将来そこからがんが高頻度に発生する可能性のある形態学的に変化した病変」のことです。WHOの分類では白板症、紅板症などに分類されています。

白板症

臨床視診型として、白板症、紅斑混在型、丘型、疣(いぼ)型の4型に分類されます。

癌化率は3.1~16.3%とされています。

紅板症

鮮紅色ビロード状の限局性紅斑で、舌、軟口蓋、口底に好発します。

・癌化率は50%と高いです。

前癌状態

前癌状態とはWHOにより「癌発生リスクを有意に増大させるのに関連した一般的状態」と定義されています。

口腔内の代表的な前癌状態として、扁平苔癬があります。

扁平苔癬

角化異常を伴った慢性炎症性疾患で、線状、網状、環状の白斑が発赤やびらんを伴って認められる病変です。

ステロイド軟膏の塗布で症状の改善が見られない場合には、生検により上皮性異形成の有無を確認する必要があります。

口腔がんの初期像

腫瘤、硬結、潰瘍などの所見を備えていれば口腔がんの診断は容易ですが、口腔がんの初期像は上記の所見に乏しく、鑑別が困難な場合が多く見られます。

初期口腔がんの肉眼所見の分類として、大きく5つの型に分類されます。

白板型

周囲よりわずかに隆起した白板を呈し、一部にびらんや潰瘍を伴います。

また、白板の周囲には軽度の硬結を伴います。

乳頭型

周囲より乳頭状、樹枝状に隆起し、表面は白く角化し、乳頭腫に似た外見を呈します。

肉芽型

腫瘤自体が表面に露出しているもので、ブツブツした肉芽様の小顆粒が密集し、進行するにつれて隆起を示します。

潰瘍型

腫瘍は深部に浸潤し、中央部が不規則に陥凹した潰瘍を呈し、周囲に噴火口状の隆起を示します。

びらん型

粘膜表面のびらんを主体としたもので、病巣周囲には硬結は見らません。

ある程度進行した口腔がん

進行してある程度の大きさとなった口腔がんでは、腫瘤、硬結、潰瘍形成などの特徴的な所見が認められます。

口腔がんの診断

口腔は直視、直達が可能な部位なので、視診や触診で局所の病態を把握することが可能です。

最終確定診断には生検により、主要病変より採取した組織の病理組織学的検査を行う必要があります。

生検を行うことで、腫瘍の悪性度、放射線や化学療法の効果の予測やリンパ節転移の可能性を判断することが出来ます。

その他、口腔内に発生する悪性腫瘍

悪性黒色腫

メラニン産生細胞に由来する皮膚の悪性腫瘍ですが、口腔粘膜、特に上顎歯肉や硬口蓋にも発生します。

口腔内での発生頻度は非常に低いものの、早期にリンパ行性あるいは血行性に転移をきたすため、極めて予後が不良です。

黒色性病変がある場合には、悪性黒色腫かどうかの鑑別が必要です。

転移性がん

他臓器に発生したがんが、歯肉や顎骨に血行性転移をきたすことがあります。

原発腫瘍の種類によって腫瘤の形態は様々です。

歯槽骨の吸収を伴い歯肉炎やエプーリスに類似した形態を示すことがあり、その場合は鑑別に注意を要します。

口腔がんと鑑別すべき病変

褥瘡性潰瘍

褥瘡性潰瘍とは、機械的刺激によって生じる潰瘍です。

口腔内では、虫歯、破折歯、不適合な被せ物、歯の挺出などの原因が存在します。

治療法

まずは外傷性因子の除去や是正を行なって2週間程度の様子を見ます。

褥瘡性潰瘍であれば原因を除去すれば2週間程度で潰瘍の改善が見られます。

潰瘍の改善が見られない場合、癌性潰瘍の可能性を疑います。

エプーリス

エプーリスとは、慢性の刺激や炎症に対する組織の反応性の増殖物です。

歯根膜または骨膜由来と考えられています。

治療法

骨膜を含んだ切除術が原則です。

歯根膜由来と考えられる症例や再発例では関連している歯の抜去が必要となることもあります。

まとめ

口腔がんは直接見て触ることができる部位のがんのため、比較的早期の段階で発見することの出来るがんです。

早期に発見し適切に治療すれば、良好な結果を得ることが出来ます

口のなかに異常を感じたら、迷わず医療機関に相談しましょう。

参考文献

国立がん研究センター 細胞ががん化する仕組み

科学的根拠に基づく口腔癌診療ガイドライン 2013年版

この記事を書いた人
八島 愛富

八島歯科クリニック 院長

歯科医師
広島県歯科医師会・会員
広島市介護認定審査委員経験者(1999年~2003年在籍)
臨床研修指導歯科医
広島デンタルアカデミー専門学校 講師
ケアマネージャー資格保持者
広島県がん診療連携登録歯科医

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