歯周組織再生療法とは、歯周病によって破壊された歯槽骨などの歯周組織を再生させる治療法です。
歯周病は、一言で言うと「骨の病気」です。
歯は骨に支えられていますが、歯周病になるとその支えている骨が溶けていきます。
歯周病は活動期と停滞期を繰り返す慢性炎症性疾患で、自覚症状に乏しいという特徴があります。
このため自覚のない内に歯周病が進行し、気づかないうちに歯を支える骨がどんどん溶けていきます。
歯周病の進行度が中等度までであれば、歯周組織再生療法で溶けてしまった骨の再生が狙える場合があります。
歯周病は歯を失う原因の1位
歯周病は歯を失う原因の1位です。
特に、歯周病で垂直性骨欠損のある歯は、 歯の喪失リスクが高いことが判っています。
Papapanou PNの研究報告によると、垂直性骨欠損がある歯が無処置で 10 年経過した際の喪失割合(喪失歯数/観察歯数)は、以下の通りでした。
- 骨欠損の深さが2 mmの歯の場合、10年後の喪失率22.2%
- 骨欠損の深さが2.5 mm~4 mmの歯の場合、10年後の喪失率45.6%
- 骨欠損の深さが4.5 mm以上の歯の場合、10年後の喪失率68.2%
歯周組織再生療法の適応症
歯周組織再生療法はどんな場合でも使えるわけではなく、適応が限られる治療法です。
基本的には3壁性の深くて狭い垂直性骨欠損が適応症となります。
1壁性や2壁性の骨欠損では、塗布した薬剤が骨欠損部に留まらずに流れ出てしまうため、効果が薄いとされています。
歯周組織再生療法で使う材料の種類
現在日本で頻用される厚生労働省の認可を受けた歯周組織再生材料または歯周組織再生医薬品としては、エムドゲインとリグロスがあります。
エムドゲインとは
エムドゲインとは幼若豚の歯胚から抽出精製した歯周組織再生材料です。
歯の発生期に重要な役割を果たすタンパクのひとつに、エナメルマトリクスタンパク質があります。
このエナメルマトリックスタンパク質に着目してスウェーデンのビオラ社が開発した製品がエムドゲインです。
世界44カ国以上で使用され、1998年登場以来20年以上使われてきた実績のある材料です。
適応症
歯周ポケットの深さが6mm以上、幅2mm以上の垂直性骨欠損(根分岐部を除く)
エムドゲインの優位点
20年以上使われてきた実績があり、しっかりした効果があると実証されています。
エムドゲインのデメリット
保険適応外の歯周組織再生材料のため、エムドゲインを使用する場合は自費治療となります。
エムドゲインを使った歯周組織再生療法の流れ
麻酔
術野に2~3カートリッジの局所麻酔を行い、十分に麻酔を構想させます。
切開・剥離
鋭利なメスで歯肉を切開し、歯肉をなるべく傷つけないように慎重に剥離を行います。
搔爬
骨欠損部の細菌感染物や不良肉芽組織を徹底的に搔爬し、術野を綺麗にします。
エムドゲイン塗布
搔爬して綺麗になった術部にエムドゲインを塗布します。
縫合
隙間が出来ないように緊密に歯肉を縫合します。
抜糸
2~6週間後、縫合糸の除去を行います。
リグロスとは
リグロスとは、FGF-2(塩基性線維芽細胞増殖因子)という増殖因子を主成分とした、世界初の歯周組織再生医薬品です。
成長因子の作用によって細胞の増殖が促進され、歯周組織の再生が起こります。
大阪大学の村上伸也教授が25年の研究をへて開発した歯周組織再生医薬品です。
適応症
歯周ポケットの深さが4mm以上ある垂直性骨欠損がある症例に適応されます 。
術後に歯肉弁の陥凹を生じると予想される骨欠損部位に対しては使用できません。
リグロスの優位点
保険適応の歯周組織再生医薬品であり、保険治療の範囲内で使用することが可能です。
リグロスのデメリット
実際に人間に使用した場合の臨床データがエムドゲインと比べるとまだ少ない。
(*リグロスの主成分であるFGF-2は皮膚科領域では以前から臨床応用されており、副作用という点では問題ないと言われています)
リグロスを使った歯周組織再生治療の流れ
麻酔
術野に2~3カートリッジの局所麻酔を行い、麻酔を十分に奏功させます。
切開・剥離
鋭利なメスで歯肉を切開し、歯肉を傷つけないように慎重に剥離をしていきます。
搔爬
細菌感染物や不良肉芽組織を徹底的に除去し、術部を綺麗にします。
リグロス塗布
搔爬によって綺麗になった術部にリグロスを塗布します。
縫合
隙間が出来ないよう、歯肉を緊密に縫合します。
抜糸
1~2週間後、縫合糸の除去を行います。
まとめ
歯周病とは、歯を支えている骨が溶ける病気です。
歯周病は歯を失う原因の1位であり、特に垂直性骨欠損がある場合はそのまま放置すると歯を喪失するリスクが高くなります。
歯周再生療法は狭くて深い垂直性骨欠損に効果的な治療法であり、歯周病が中等度の内に施術することで歯の喪失リスクを防ぐことが出来ます。
歯周病は自覚症状なく進行する病気なので、症状が出てから歯科医院に受診する場合は後手後手になる場合があります。
定期的に歯科医院で健診を行い、早期発見早期治療を心掛けましょう。
参考文献
日本歯周病学会|歯周病患者における再生療法のガイドライン2023
The angular bony defect as indicator of further alveolar bone loss