糖尿病と歯周病は総合に悪影響を与えあいます。
歯周病と糖尿病の関係は以前から指摘されていましたが、最近は様々な研究からそのメカニズムが明らかになってきました。
糖尿病が歯周病に与える影響
統計的に、糖尿病の人はそうでない人に比べて歯周病に約2.6倍以上かかりやすくなることが判っています。
糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの働きが悪くなり、血糖値が異常に高くなる病気です。
血糖値が高い状態が長く続くと、血管に負担がかかり、全身のあちこちの血管が障害されます。
糖尿病により全身の血管が障害されることで、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害など、様々な合併症が引き起こされます。
歯周病も糖尿病により引き起こされる合併症の一つです。
糖尿病が歯周病リスクを高めるメカニズムは主に3つのメカニズムからなります。
血管障害による歯肉の組織修復能力の低下
糖尿病による血管障害は、歯肉にも起こります。
血管が障害されると血流が悪くなるため、歯周組織は酸素や栄養不足に陥ります。
低酸素・低栄養状態になると歯肉の生体防御機能や組織修復能力が低下します。
このため、歯周病菌による炎症が進行しやすい環境となります。
全身の免疫力の低下
糖尿病になると血流が悪くなるため、血液中の白血球が感染部位に到達しにくくなります。
このため、全身の免疫力が低下します。
歯茎も白血球による免疫機能が低下した状態となり、歯周病菌に対する抵抗力が落ちた状態となります。
唾液の分泌量の低下
正常人の場合,1 日の唾液量は 800 – 1500 mL分泌されています.
しかし,糖尿病の人では高い割合で唾液の分泌量が低下し、口腔感想などの症状が生じるようになります。
唾液には細菌の増殖を抑えるIgAやラクトフェリンなどの抗菌物質が含まれています。
このため唾液の分泌が低下すると抗菌作用も低下し、歯周病菌が増加しやすい環境となります。
歯周病が糖尿病に与える悪影響
糖尿病が歯周病に悪影響を与えるように、歯周病も糖尿病に悪影響を与えます。
炎症性サイトカインによるインシュリン抵抗性の増大
歯周病菌が出す内毒素が血管内に侵入すると、TNF-α(tumor necrosis factor-α)という炎症性サイトカインの産生が促進されます。
歯周病による炎症が長期化すると、血液中にTNF-αが沢山ある状態が続くことになります。
TNF-αには、インスリンの働きを妨げる作用があります。
インスリンは血糖値を下げる作用があるホルモンです。
インスリンの働きが妨げられると、インスリンの量が十分にあっても血糖値が上手く下がらなくなります。
このインスリンの働きが妨げられた状態のことを、インスリン抵抗性といいます。
インスリン抵抗性に対して、身体はなんとかしようとして、より多くのインスリンを産生しするようになります。
このインスリンが過剰に産生されて血中濃度が高濃度になると、高インスリン血症となります。
長期にわたってインスリンの過剰産生が続くと、インスリン産生細胞である膵β細胞が疲労していきます。
膵β細胞が疲労して機能が低下するとより重篤の糖尿病となります。
歯周病による食べる機能の低下
歯周病が重度~中等度進行すると歯がぐらぐらになったり、歯が抜けて無くなったりします。
歯が無くなると物をかみ砕く機能が低下します。特に歯が20本未満の状態になると、20本以上ある人に比べて有意に食べられるものが制限されるようになります。
食べられるものが制限されるようになると、きちんとバランスのよい食事ができなくなり、糖尿病の食事療法に悪影響が出ます。
また、歯が無くても食べられるような軟らかい食べ物は高血糖のものが多く、糖尿病の増悪因子となります。
歯周病と糖尿病の悪循環を断ち切ろう
糖尿病と歯周病はお互いに悪影響を与えあっています。
このため糖尿病の治療を行うと歯周病の改善効果があり、逆に歯周病を治療すると糖尿病の改善効果があります。
糖尿病は、脳梗塞、心筋梗塞、腎不全などの合併症を引き起こします。その影響で、糖尿病患者の平均寿命は、男性で約10年、女性で約13年短くなると言われています。
歯周病と糖尿病を双方とも適切に治療を行うことで、歯周病と糖尿病の悪循環を断ち切ることが出来ます。
歯周病治療について
歯周病治療についてはこちらのページで詳しく解説しています。
参考文献
e-ヘルスネット|歯周病と全身の状態 糖尿病と歯周病の双方向性