どんな場合に歯を抜かなければならないか?

抜歯の判断基準 その他

多くの方は歯を抜くことに抵抗があると思います。

また、歯科医師側も歯を残すことが仕事なので、抜歯は気持ちがいいものではありません。

しかし、歯の状態によっては抜歯を行う必要があります。

どんな場合に抜歯の基準に当てはまるのかを解説していきます。

残そうにも限界である歯

虫歯や歯周病は病原菌によって引き起こされます。

歯周病や虫歯の治療はざっくりというと病原菌に侵された部分を取り除いて進行を止め、再度の発症を防ぐことを目的としています。

軽度〜中等度であれば歯を残したまま感染部分の除去ができますが、重度に進行すると歯を残したまま感染部分を除去するのが不可能になります。

細菌感染した歯をそのままにしておくと周りの歯にも感染が波及して口腔内が崩壊していく危険性があります。

そのような状況になった場合は、他の歯を守るために抜歯を行う必要があります。

重度の歯周病

概要

歯周病とは骨が溶ける病気です。

歯周病が進行すると歯を支えている骨がどんどん溶けていき、最後はグラグラになって噛む力に耐えられなくなります。

歯周病は中等度までであれば治療によって残せる可能性がありますが、重度にまで進行したものは保存不可能となります。

また、重度の歯周病の歯をそのままにしておくと、問題のある歯だけでなく、周囲の歯にまで悪影響が及びます。

重度の歯周病になった歯を抜歯することで、それ以上周囲の歯や骨に悪影響が広がることを防ぐことができます。

歯を失う原因全体に占める割合

歯周病は歯を失う原因の1位で、歯を失う原因全体の41.8%を占めています。

歯を失う原因

重度の虫歯

保存不可能な虫歯

概要

虫歯が歯肉縁下まで及ぶ歯は、歯の周囲の歯茎の正常構造が破壊されてしまいます。

その状態が改善できなければ、周囲の歯や骨に悪影響を及ぼすのを防ぐために抜歯の適応となります。

歯冠長延長術や矯正的提挺出(エクストルージョン)が適応出来る状態であれば、虫歯部分を歯肉縁上に移動させて健常な状態に戻すことが出来ます。その場合は保存が可能です。

歯冠長延長術

矯正的挺出

歯を失う原因全体に占める割合

虫歯は歯を失う原因の2位で、歯を失う原因全体の32.4%を占めています。

歯を失う原因

歯根の破折

概要

歯根部分が割れてしまってそこに細菌感染が起こった場合は、原則保存不可能です。

ヒビの入った部分を起点として周囲の骨がどんどん溶けていってしまいます。

骨の破壊を食い止めるためには、細菌感染を取り除くことが必要です。

現状では確実にヒビの入った部分の細菌感染を取り除く方法が抜歯以外に無いため、抜歯が必要となります。

歯を失う原因全体に占める割合

歯の破折は歯を失う原因の3位で、歯を失う原因全体の11.4%を占めています。

歯を失う原因

存在していることに問題のある歯

その歯を保存することによる利益が殆どなく、かつ他の歯に悪影響を与えている場合は抜歯の適応となります。

以下のような歯がそれに該当します。

  • 他の歯に悪影響を及ぼす親知らず
  • 大人の歯が生えるのを邪魔している乳歯
  • 大人の歯に悪影響を与える可能性のある乳歯
  • 変な位置に生えている歯

親知らずについてはこちらで詳しく解説しています。

矯正治療のため抜歯(便宜抜歯)

概要

顎の骨が小さく、全ての歯を並べるスペースがない場合は、便宜的に歯を抜歯して歯の本数を減らすことで歯が並ぶようにする場合があります。

歯を失う原因全体に占める割合

矯正治療に伴う便宜抜歯は、歯を失う原因全体の1.2%を占めています。

歯を失う原因

歯を失わないためにはどうすればいいのか?

歯を失わないためには、上記のような抜歯が必要な状態にしないよう予防することが重要になります。

歯周病・虫歯への対策

虫歯や歯周病は初期は症状がなく、気づかないうちに進行していくため、歯科医院に定期的に通って予防管理をすることが最も効果的です。

実際、予防の発達しているスェーデンでは、歯周病と虫歯が原因で歯を失う人が減っています。

そのため、スエーデンでは歯を失う原因1位は歯の破折(全体の62%)となっています。

歯周病や虫歯に関してはこちらで詳しく解説しています。

歯根破折への対策

歯根破折に関しては、歯根破折のリスクを高める要素を減らすことが予防法となります。

リスク要素として以下のようなものがあります。

歯の神経の喪失

神経を抜いた歯は血液供給がなくなり、枯れ木のように脆くなります。

そのため、神経を失った歯は歯根破折を起こすリスクが高まります。

神経を失う原因のほとんどは虫歯の進行の為、虫歯予防が歯根破折への対策に繋がります。

フェルールがない状態で土台を立てている

フェルールとは、被せ物に覆われる健全歯質部分のことです。

フェルール

歯に力がかかった時、フェルールがあると土台の先端に力が集中するのを防ぐことができます。

しかし、フェルールがないと 先端に力が集中しやすいため、破折を起こすリスクが高まります。

フェルールを失ってしまった歯でも、 歯冠長延長術や矯正的提挺出(エクストルージョン)が適応出来れば再度フェルールを得ることが出来ます。

歯冠長延長術

歯冠長延長術

矯正的提挺出(エクストルージョン)

矯正的挺出

歯ぎしりがある

歯ぎしりを行う習癖があると歯に過剰な力がかかり続けるため、そうでない人に比べて有意に歯根破折を起こす危険性が高いです。

歯ぎしりによるリスクを軽減する方法としては、マウスピースの装着が挙げられます。

マウスピースを装着することにより、歯にかかる負担をある程度和らげることができます。

もし歯を失ってしまったら

もし歯を失ってしまった場合は、そのまま放置すると、両隣の歯が倒れてきたり、噛み合っていた向い合う歯が伸びてきたりして、噛み合わせに狂いが生じる可能性があります。

噛み合わせに狂いが生じるまで放置すると様々なトラブルの原因になります。

トラブルを避けるためにも、歯を失った後は放置せずに早めに治療を行うようにしましょう。

歯が抜けたまま放置するとどうなる?
歯を失ったまま放置すると、両隣の歯が倒れてきたり、噛み合っていた向い合う歯が伸びてきたりして、噛み合わせに狂いが生じます。噛み合わせに狂いが生じると、発音がしづらくなったり、うまく噛めなくなって食事の際に支障が出るなど様々な問題が生じます。

まとめ

歯を抜くことに多くの人は抵抗があると思います。

歯医者側も歯を残すことが仕事なので、抜歯は気持ちがいいものではありません。

しかし、一本の歯を無理矢理残すことで他の多数の歯の寿命が縮む場合は、歯を守るために歯を抜くという選択を考える必要があります。

自分にとって最良の治療を選択するためには、歯を残すことによるメリットとデメリットをしっかり吟味して治療を選択することが重要です。

現在はセカンドオピニオンを行うことも一般的になっているので、納得を得るためにそういった制度を積極的に利用することも有効です。

参考文献

日本歯周病学会|歯周治療の指針2015)

日本歯内療法学会|歯内療法ガイドライン(2009年発行)

日本補綴歯科学会| 歯の欠損の補綴歯科診療ガイドライン2008

歯の欠損の補綴歯科診療ガイドライン2008| 支台築造法において,ファイバーポストは,有効であるか?

この記事を書いた人
八島 愛富

八島歯科クリニック 院長

歯科医師
広島県歯科医師会・会員
広島市介護認定審査委員経験者(1999年~2003年在籍)
臨床研修指導歯科医
広島デンタルアカデミー専門学校 講師
ケアマネージャー資格保持者
広島県がん診療連携登録歯科医

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