親知らずとは、最後方に生えてくる大臼歯で、第3大臼歯が正式な名称です。
親知らずが生えてくるのは一般に20歳前後です。
成人後に親に知られずに生えてくる歯であることが、「親知らず」という名称の由来だと言われています。
親知らずは正常に生えてこないことが多い
現在では親知らずが正しく生えている人は3割程度で、残りの7割の人は親知らずが斜めに生えたり埋伏したりしています。
1960年以前は親知らずが正しく生えてくる人が過半数を占めていましたが、近代になるにつれて親知らずが正常に生えてこない人の割合が増加してきています。
1930年頃から近代化の影響が食生活にも現れ、それに伴う食生活の変化が歯や骨に影響を与えたと推察されています。
親知らずが変な生え方をすると清掃できない不潔な部位が出来てしまうため、智歯周囲炎を起こすリスクがあります。
智歯周囲炎とは
親知らずが斜めに中途半端に生えると、歯肉が部分的に被ったままの状態になります。
そのような部位は清掃が難しいために不潔になり易く、歯肉の炎症を起こす原因となります。
親知らずが原因で起きる歯肉の炎症を「智歯周囲炎」と呼びます。
智歯周囲炎が重症化すると炎症が周りの組織に波及して、顔が腫れたり、口が開きにくくなったりすることがあります。
一度智歯周囲炎を起こすと炎症を繰り返すようになるため、多くの場合親知らずの抜歯を勧められるようになります。
親知らずを抜いた方が良いかの判断基準
親知らずが上下で正常に生えて噛み合っている場合は、特に抜く必要がありません。
しかし親知らずが原因で不快症状が生じたり、周りの歯に損傷を与えるような場合は抜くことを考える必要があります。
基本的には、歯を抜くメリットとデメリットを天秤にかけて、メリットの方が大きいと判断した時に抜歯の適応となります。
歯を抜いた方が良い場合
親知らず周囲の歯茎の腫れを繰り返す場合
親知らずが中途半端に生えて清掃が難しい部位があると、智歯周囲炎を起こす可能性があります。
一度智歯周囲炎を起こすと、症状が治まった後も細菌感染が残るため腫れを繰り返すようになります。
智歯周囲炎を繰り返すと、隣の歯を支えている骨が溶けるなどの悪影響も生じます。
親知らずが虫歯になってしまった場合
親知らずは一番奥の歯なので治療器具が届くように口を大きく開けてもらう必要があり、治療が大変なことが多いです。
また、手入れが困難な部位のため、治療しても再び虫歯になる可能性があります。
このため、親知らずが虫歯になった場合はあえて治療をせずに抜いてしまった方が良い場合があります。
親知らずが原因で手前の歯が虫歯になってしまった場合
親知らずが原因で手前の第2大臼歯に虫歯が発症してしまった場合、第2大臼歯の治療のために親知らずを抜く必要があります。
親知らずが悪影響を与えている状況をそのまま放置すると、第2大臼歯の状態が悪くなりすぎて保存不可能になる危険性があります。
親知らずが歯並びに影響を与えている場合
親知らずが横向きになっている場合、手前の歯に後ろから押すような力がかかります。
親知らずが手前の歯を強く押くことによって、歯並びが悪くなってしまうことがあります。
噛んだ時に親知らずが歯茎や頬の粘膜を傷つける場合
歯は噛み合う相手がいないとどんどん伸びていきます。
歯が伸びると向かいの歯茎や頬の粘膜に接触するようになり、痛みを引き起こすようになります。
親知らずの抜歯難易度の判断基準
親知らずの抜歯難易度は以下のような要素によってきまります。
親知らずの位置の深さ
親知らずの位置が深い位置だと、視野が取りづらい上に器具が到達しにくいため難しい抜歯となります。
根っこの数
根っこが複数に分かれて骨を抱えていると歯を抜くのが難しくなります。
そのままでは抜けない場合、歯根を分割してバラバラにする必要があります。
神経との近さ
神経に近い場合は注意が必要です。
下顎神経を損傷すると知覚鈍麻が生じる危険性があります。
特に歯冠を分割する際に神経までの距離が近いと、神経を損傷するリスクがあります。
神経損傷を回避するためにはCT撮影での正確な診断が重要です。
CT撮影でわかること
CTを撮影することで歯や骨の3次元的な形態が判ります。
親知らずが斜めに生えていて歯を分割する必要がある場合、親知らずと神経までの距離を測定するためにCT撮影を行った方が安全です。
また、親知らずと神経との距離が具体的に何ミリ位離れているかも判別できます。
切削器具で削る部位が神経から4mm以上離れていれば安全に処置することが可能です。
神経との位置関係が難しい場合、紹介になることも
神経損傷を起こすリスクが高い場合は、大きな病院の口腔外科に紹介することがあります
分割予定位置と神経が接している場合
歯根が神経を挟み込んでいる場合
難しい抜歯の依頼先
難しい抜歯は以下のような高度医療機関に依頼する場合があります。
治療の流れ
消炎処置
自発痛などの急性症状がある場合、まずは炎症を落ち着かせる必要があります。
炎症が強い状態では、組織が酸性となっているため、麻酔が効きにくい状態となっています。
麻酔が効かない状態では外科的な処置は行えないため、炎症が強い場合はまずは抗生剤の投与などの処置を行い、炎症を落ち着かせます。
CT撮影(必要な場合のみ)
親知らずが斜めに生えていて歯を分割する必要がある場合、親知らずと神経までの距離を測定するためにCT撮影を行った方が安全です。
切削器具で削る部位が神経から4mm以上離れていれば安全に処置することが可能です。
抜歯処置
炎症が落ち着いた状態になったら、外科的な処置が行えます。
歯を分割する必要がある場合は、歯の形がしっかり見えるように歯茎をめくる必要があります。
消毒
抜歯後、術後感染などの問題がないかの確認と消毒を行います。
また、縫合を行った場合は術後1週間後をめどに抜糸を行います。
歯を抜いた後の腫れは翌日~2日目がピークです。
術後感染などの問題が無ければ大体術後1週間程度で腫れは収まります。
まとめ
親知らずが上下で正常に生えて噛み合っている場合は、特に抜く必要がありません。
しかし親知らずが原因で不快症状が生じたり、周りの歯に損傷を与えるような場合は抜くことを考える必要があります。
基本的には、歯を抜くメリットとデメリットを天秤にかけて、メリットの方が大きいと判断した時に抜歯の適応となります。
CT撮影装置を用いることで親知らずの難易度を正確に診断することが可能です。
心配な方はCT撮影装置を備えた歯科医院を受診されることをお勧めします。
参考文献
堀之内 康文 (著)「必ず上達 抜歯手技」 クインテッセンス出版 (2010)